電子計算機使用詐欺罪の「虚偽の情報」について判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和6年7月16日判決
電子計算機使用詐欺罪の「虚偽の情報」について判断した最高裁判決です。
事案の概要
被告人が収受した暗号資産(仮想通貨)であるNEMは、氏名不詳者が、不正に入手したA社のNEMの秘密鍵を用いて、A社の管理するNEMアドレスから氏名不詳者らの管理するNEMアドレスに移転させた本件NEMの一部であったと認められる。
そして、NEMの取引においては、取引日時、取引数量、送受信アドレス等の取引に必要なトランザクション情報を、送信元のNEMアドレスに紐づけられている秘密鍵で署名した上でNEMのネットワークに送信すると、NEMのネットワークを構成するいずれか一つのNISノード(サーバ)が、送信元のNEMアドレスに紐づけられている公開鍵で、署名が秘密鍵によってなされたものであるかを検証し、トランザクション情報の整合性を機械的に確認して、トランザクションを承認し、こうして承認されたトランザクションが、他の承認されたトランザクションとともにまとめて一つのブロックとして生成され、これが順次積み重なりブロックチェーンに組み込まれ、最初のブロックから最新のブロックまで一連のブロックチェーンの情報をNEMのネットワーク全体が共有することで、書換えが事実上困難になり、取引が確定するというのである。
争点
氏名不詳者が不正に入手した秘密鍵を用いて本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為が、電子計算機使用詐欺罪の構成要件である「虚偽の情報」を与えたことになるか?
最高裁の判断
最高裁は、不正に入手した秘密鍵を用いて本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為は、電子計算機使用詐欺罪の「虚偽の情報」を与えたことに該当すると判断しました。
NEMのネットワークに参加している者は、自らの管理するNEMアドレスに紐づけられている秘密鍵で署名しなければ、トランザクションがNISノードに承認されることも、ブロックチェーンに組み込まれることもなく、
NEMの取引を行うことができないのであるから、秘密鍵で署名した上でトランザクション情報をNEMのネットワークに送信することは、正規に秘密鍵を保有する者によるNEMの取引であることの確認のために求められるものといえる。
このような事情の下では、氏名不詳者が、不正に入手したA社のNEMの秘密鍵で署名した上で本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為は、正規に秘密鍵を保有するA社がNEMの取引をするものであるとの「虚偽の情報」をNEMのネットワークを構成するNISノードに与えたものというべきである。したがって、本件移転行為が電子計算機使用詐欺罪に該当し、本件NEMが組織的犯罪処罰法2条2項1号にいう「犯罪行為により得た財産」に当たるとして、その一部を収受した被告人について、犯罪収益等収受罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当である。