官房機密費に関する情報公開請求に関する最高裁判決

原審の判断

 本件対象文書のうち政策推進費受払簿,出納管理簿(国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る記録部分を除く。)及び報償費支払明細書に係る本件不開示決定部分の取消請求を棄却し,これに係る開示決定の義務付けを求める訴えを却下すべきものとした。

(1)報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示され,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになると,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられ,これにより,内閣官房において内閣官房報償費を支出することをためらったり,支払を受ける相手方において協力を取りやめようとしたりすることが予測される。

 したがって,上記記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当する。

(2) 政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分の各開示によって明らかになる情報自体からは,政策推進費の支払相手方や具体的使途まで判明するわけではないが,ある時期に繰り入れられた政策推進費が繰入れに近い時期に全額又は大部分の額が支払われるような場合には,その支払額と支払時期が相当程度特定され,又は推認されることになる。また,出納管理簿のうち月分計部分及び累計部分並びにそれぞれに対する内閣官房長官の確認印部分(「月分計等記録部分」という。)や報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示され,内閣官房報償費の各月における支払合計額,年度末における残額等が明らかになると,推進しようとしている政策や施策,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途についても,相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。

 したがって,政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうち上記記録部分にそれぞれ記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当する。

最高裁の判断

 最高裁は,原審の(1)の判断は是認しましたが,(2)の判断は覆し,以下のように判断しました。

(1)内閣官房は,我が国の国政上の重要事項や内閣の重要政策に関する企画,立案及び総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等をつかさどる機関であるところ,これらの事務を的確に行うために,内閣官房は,内閣官房長官によるその時々の政策的判断に基づき,内政上及び外政上の重要政策の関係者に対し非公式に交渉や協力依頼等を行い,あるいは,重要事項につき外部からの情報収集を行うなどの様々な活動に及ぶことがあり,内閣官房報償費は,そのような活動を円滑かつ効果的に遂行するために必要な経費について支出されるものということができる。
 そして,一般に,内閣の行う政策や施策は,我が国の内政及び外政の根幹に関わるものとして,絶えず関心が寄せられるものであり,取り分け内閣官房報償費の支出の対象となるような重要政策等に関しては,特に高度の関心が寄せられ,様々な手段により,これに関連する情報の積極的な収集,分析等が試みられる蓋然性があるものというべきである。

 重要政策等に関して内閣官房から非公式の協力依頼等を受けた関係者は,上記のような事柄の性質上,自らが関与するなどした事実が公にならないことを前提にこれに応じることが通常であると考えられる。そうすると,上記事実に関する情報又はこれを推知し得る情報が開示された場合には,当該関係者からの信頼が失われ,重要政策等に関する事務の遂行に支障が生ずるおそれがあるとともに,内閣官房への協力や情報提供等が控えられることとなる結果,今後の内閣官房の活動全般に支障が生ずることもあり得る。また,このような関係者等の氏名又は名称が明らかになると,これらの者への不正な働き掛けが可能となり,その安全が脅かされたり,情報が漏えいしたりすることによって,内閣官房の活動の円滑かつ効果的な遂行に支障が生ずるおそれもある。

(2)報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示された場合,その支払相手方や具体的使途が直ちに明らかになるものではないが,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになることから,上記のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮すれば,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,内閣官房において対応するものと推測される重要な出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,これらに関する情報との照合や分析等を行うことにより,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。
 そうすると,上記記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものと認められ,さらに,上記情報のうち我が国の外交関係や他国等の利害に関係する事項に関するものについては,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるものと認められる。
 したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当するというべきである。

(3) 政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分が開示されても,政策推進費の繰入れがされた時期やその金額,政策推進費の前回の繰入時から今回の繰入時までの期間内における政策推進費の支払合計額等が明らかになるにすぎない。また,出納管理簿のうち月分計等記録部分及び報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示されても,内閣官房報償費の各月における支払合計額及び年度当初から特定の月の月末までの間の支払合計額のほか,年度末における残額が明らかになるにすぎない。政策推進費の繰入れは,内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する行為にすぎないから,その時期や金額が明らかになっても,その後関係者等に対してされた個々の支払の日付や金額等が直ちに明らかになるものではなく,また,一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額が明らかになっても,その支払が1度にまとめて行われたのか複数回に分けて行われたのか,支払相手方が1名か複数名かなどについては明らかになるものではないことからすると,前記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮しても,これによって内閣が推進しようとしている政策や施策の具体的内容,その支払相手方や具体的使途等を相当程度の確実さをもって特定することは困難であるというほかない。以上のことは,本件対象期間に係る政策推進費受払簿の記載上,政策推進費の繰入れがほぼ毎月2回又は3回の頻度で行われ,次の繰入れがされるまでに残額が0円となるような運用がされている期間があるという事情によっても,左右されるものではない。
 したがって,上記の文書及び各記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しないというべきである。