情報公開に関する最高裁判決

預託法違反及び景表法違反に係る調査の結果の情報公開に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁令和4年5月17日判決

 預託法違反及び景表法違反に係る調査の結果の開示を求めたところ、情報公開法5条6号イの不開示情報に当たるとして、開示が認められなかった文書の開示を求めた事件です。

事案の概要

 本件会社は、繁殖牛を販売した上、その買主からその飼養を受託して繁殖した子牛を買い取り、買主に利益金を年1回支払いながら所定の期間経過後に買主から繁殖牛を買い戻すという仕組みによる和牛の預託商法を行っていた。

 農林水産大臣は平成21年1月、農水省職員に、本件会社の事業所への立入検査をさせた。農水省は、同年3月、本件会社に対し、上記立入検査の結果に基づいて、財務諸表等を適切に作成し、かつ、その結果を定期的に報告するよう指示した。

 本件会社は、平成23年8月1日、本件契約に係る全預託者に対して支払停止の通知書を一斉に送付し、同月9日、再生手続開始の申立てをした。

 消費者庁長官は、平成23年11月30日、本件会社に対し、景表法6条に基づき、本件契約の内容についての雑誌広告における表示が同法に違反するものである旨を一般消費者へ周知徹底することを命ずる措置命令を行った。

 被上告人は、平成23年9月14日、情報公開法に基づき、消費者庁長官に対し、本件会社に関する行政文書の開示を請求し、その後、開示請求に係る行政文書を農水省、消費者庁取引対策課又は同庁表示対策課が作成し、又は入手した本件会社に関する行政文書等に補正した。

 消費者庁長官は、平成23年12月22日までに、上記補正後の行政文書に該当するものの一部を開示する旨等の各決定をしたが、被上告人の異議申立てを受けて、上記各決定を全部取り消した上で、別紙目録記載の部分等に記録された情報が情報公開法5条6号イ等所定の不開示情報に該当するとして、当該部分等を除いた一部を開示する旨等の平成25年8月8日付け消取引第609号、同日付け消取引第610号及び同月19日付け消表対第364号の各決定(本件各決定)をした。

別紙目録記載1及び2について

 別紙目録記載1及び2の部分に係る各文書は、いずれも、本件会社が再生手続開始の申立てをした後に、消費者庁取引対策課等が本件会社に対して預託法上とり得る措置を検討するために作成したものである。

 このうち同目録記載1の部分に係る文書は、同課が本件会社の会計処理に関する同法上の確認事項をまとめたものであり、同部分は、「第1」及び「第2」の2項目で構成され、「第1」には、「安愚楽牧場の預託商法」と題する項目の下に、本件契約のコースごとの説明及び同法上の解釈が記載され、「第2」には、「確認したい事項」と題する項目の下に、本件契約のうち特定のコースに係るものを念頭に置いて、関係者の思考過程、今後の検討事項等が記載されている。

 また、同目録記載2の部分に係る文書は、同課課長らが同庁審議官に宛てて本件会社の牛の市場価格と預託商法における商品価格とのかい離についてまとめたものであり、同部分には、情報を入手した方法、上記かい離についての考え方、その具体例、牛の市場相場の一般論が記載されている。

別紙目録記載3から11について

 別紙目録記載3、4、6、8及び9の部分に係る各文書は、いずれも、農水省職員が本件会社に対する預託法違反に係る調査の過程において事業所への立入検査又はその後の追加調査の結果をまとめたものであり、同部分には、上記立入検査等の結果が記載されている。

 同目録記載5の部分に係る文書は、本件会社が上記立入検査後に任意に提出した「資料等の提出について」と題する文書(1枚目)及び「要求資料等について(回答)」と題する文書(2、3枚目)から成り、各頁には、農水省職員が手書きで書き込んだメモがある。

 同目録記載7の部分に係る文書は、農水省職員が上記立入検査等により得た資料を基に作成した資料である。

 別紙目録記載11の部分に係る文書は、消費者庁表示対策課職員が上記 エの措置命令に先立って本件会社の当時の代理人弁護士及び担当者から必要な事項を聴取した際のやり取りについて同庁内部で共有するために作成した文書であり、同部分には、上記やり取りの概要が記載されている。

原審の判断

 原審は、①別紙目録記載3から11は不開示情報に当たらない、②別紙目録記載1及び2は不開示情報に該当すると判断しました。

別紙目録記載3から11について

 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断して、本件各決定のうち別紙目録記載3から11までの部分に関する部分の取消請求を認容した。 預託法違反及び景表法違反に係る調査の結果の内容やその報告等の客観的な事実に関する情報は、これが開示されることにより、将来の調査に備えてあらかじめ資料の隠蔽又は改ざんがされ、監督機関がする検査に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼす蓋然性があるとはいえないから、情報公開法5条6号イ所定の不開示情報に該当しないと解すべきであるところ、同目録記載3から11までの部分に記録されている情報は、預託法等違反に係る調査の結果に関するものであるから、同号イ所定の不開示情報に該当しない。

別紙目録記載1及び2について

 原審は、前記事実関係等の下において、別紙目録記載1及び2の部分に記録されている情報につき、それぞれ一体的に情報公開法5条6号イ所定の不開示情報に該当すると判断して、本件各決定のうち同部分に関する部分の取消請求を棄却すべきものとした。

最高裁の判断

 最高裁は、①別紙目録記載3から11、②別紙目録記載1及び2いずれも原審の判断を覆しました。

別紙目録記載3から11について

 消費者庁は、預託法及び景表法に関する事務をつかさどるところ、預託法等は、預託者又は一般消費者の利益の保護を図ることを目的として、預託等取引業者又は事業者の一定の行為の制限及び禁止等を規定するとともに、消費者庁長官等は、上記の規定に違反する行為がある預託等取引業者等に対して業務停止命令等の行政処分をすることができる旨を規定する。

 預託法等違反に係る調査は、預託等取引業者等が上記行為をしたか否か、それをしたとして預託法等に基づく行政処分をするか否か、行政処分をする場合にいかなる行政処分を選択するかなどの預託法等の執行に係る判断の前提となる事実を把握する目的で行うものであって、これに係る事務を迅速かつ適正に遂行することは、上記の制限等に係る規定の実効性を担保し、もって上記の預託法等の目的を達成し、消費者庁の事務を遂行するために必要不可欠なものであるといえる。

 他方、このような預託法等違反に係る調査の位置付け等からすれば、預託法等の規制の潜脱を図ろうとするような預託等取引業者等においては、消費者庁長官等が上記判断をするに当たり、いかなる事実関係をいかなる手法により調査を行い、調査により把握した事実関係のうちいかなる点を重視するかなどの着眼点や手法等に高度の関心を寄せ、他の預託等取引業者等に対する調査に係る情報の積極的な収集、分析等を試み、上記着眼点や手法等を推知した上で、将来の調査の実効性を失わせるためその対象となり得る資料等を隠蔽し、又は改ざんすることなどがあり得るものといえる。

 預託法等違反に係る調査の結果に関する情報は、それが客観的な事実に関するものである場合には、必ずしも上記着眼点等自体を直接的な内容とするものであるとはいえない。もっとも、預託法等違反に係る調査の担当者が調査の過程において調査の結果をまとめた報告書等の行政文書に記録された上記情報の内容には前記の調査目的が反映されていると考えられるから、これが開示された場合、預託法等の規制の潜脱を図ろうとするような預託等取引業者等において、当該行政文書に調査に係る事実関係のうちいかなるものに重点が置かれて記載されているかなどを分析することにより、上記着眼点や手法等を推知し得る場合があることは否定できない。そうすると、預託法等違反に係る調査の結果に関する情報については、それが客観的な事実に関するものであったとしても、当該情報を公にすることにより、将来の調査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるといえる場合があり得るというべきである。

 したがって、上記の観点から審理を尽くすことなく、別紙目録記載3から11までの部分に記録されている情報について、当該情報が預託法等違反に係る調査の結果に関するものであることから直ちに情報公開法5条6号イ所定の不開示情報に該当しないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

別紙目録記載1及び2について

 別紙目録記載1の部分は、「第1」及び「第2」の2項目で構成されており、「第1」には、「安愚楽牧場の預託商法」と題する項目の下に、消費者庁取引対策課が把握した本件契約の内容に関する事実関係及びそれに関する法令解釈が記載され、「第2」には、「確認したい事項」と題する項目の下に、同課において預託法の執行に向けて今後確認を要する事項等が記載されているというのであり、各項目に異なる情報が記録されていることがうかがわれる。

 また、同目録記載2の部分には、情報を入手した方法、本件会社の牛の市場価格と預託商法における商品価格とのかい離についての考え方、その具体例、牛の市場相場の一般論が記載されているところ、これらの記載内容の相互の関係や同部分の構成等は明らかでない。

 ところが、原審は、上記の観点から審理を尽くすことなく、同目録記載1及び2の部分に記録されている情報について、それぞれ一体的に情報公開法5条6号イ所定の不開示情報に該当するか否かを判断したのであり、この原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。