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保有個人情報の不開示が国賠法上違法になるかを判断した最高裁判決


保有個人情報の不開示決定に国賠上の違法性があるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和5年10月26日判決

 東京拘置所に未決拘禁者として収容されていたXが、旧行政機関個人情報保護法に基づき、東京矯正管区長に対し、自分が収容中に受けた診療に関する診療録に記録されている保有個人情報の開示を請求したが、全部不開示の決定を受けた。本件決定は違法であると主張して、決定の取消し及び国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

 ※本件のカルテの開示請求に関しては、刑事施設の収容者が収容中に受けた治療のカルテの開示請求参照

事案の概要

 旧行政機関個人情報保護法45条1項は、刑事事件等に係る裁判、検察官等が行う処分、刑又は保護処分の執行等に係る保有個人情報については、同法12条1項を含む同法第4章の規定を適用しない旨規定していた。

 Xは、平成28年1月25日、被告人として千葉刑務所に収容され、同年7月20日、同刑務所から東京拘置所に移送された。

 Xは、平成29年5月12日、法務大臣から権限又は事務の委任を受けた東京矯正管区長に対し、自分が収容中に受けた診療に関する診療録に記録されている保有個人情報の開示を請求したが、東京矯正管区長は、同年6月15日付けで、被収容者診療情報は行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるとの見解に立脚して、本件情報の全部を開示しない旨の本件決定をした。

 第1審及び第1次控訴審は、本件情報は、旧行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たり、同法12条1項の規定による開示請求の対象から除外されるから、本件決定は適法であるとして、Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。

 これに対し、第1次上告審は、刑事施設に収容されている被収容者が収容中に受けた診療に関する被収容者診療情報は旧行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないとし、本件情報は同法12条1項の規定による開示請求の対象となる旨判断して、第1次控訴審判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。

 東京矯正管区長は、第1次上告審判決の後、本件決定を全部取り消すとともに、本件情報の一部を開示する旨の決定をした。

原審の判断

 原審は、①本件決定の取消請求に係る部分は、訴えの利益を欠くとして却下しました。一方、②本件決定は行政機関個人情報保護法に反し違法であると判断し、損害賠償請求を一部認容しました。

 法務大臣及び法務省矯正局の担当者は、被収容者診療情報は旧行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるとの解釈を採用し、法務省において組織として当該解釈を周知していたものであり、全国の矯正管区長は、当該解釈に従って、被収容者の医療記録に関する開示の可否を判断してきた実態があるから、法務省の担当者等に職務上の注意義務違反が認められれば、本件決定は国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価することが相当である。しかるところ、旧行政機関個人情報保護法45条1項の規定の文言からは、直ちに、被収容者診療情報が同項所定の保有個人情報に当たると読み取ることはできないこと等からすれば、上記のような解釈を採用すべき相応な根拠は見当たらず、法務省の担当者等において、その職務上尽くすべき注意義務を尽くしていれば、被収容者診療情報は同項所定の保有個人情報に当たらないとの解釈を採用すべきものと認識することができたというべきであり、法務省の担当者等は職務上の注意義務に違反したものというべきである。

したがって、本件決定は、国家賠償法1条1項の適用上も違法である

最高裁の判断

 最高裁は、本件決定は、国賠法上の違法性はないと判断しました。

 本件決定は、本件情報に係る開示請求を受けた東京矯正管区長において、旧行政機関個人情報保護法45条1項の解釈を誤り、被収容者診療情報は同項所定の保有個人情報に当たるとの見解に立脚して行ったものであるが、そのことから直ちに、本件決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、東京矯正管区長が本件決定をする上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がある場合に限り、上記評価を受けるものと解するのが相当である。

 本件決定当時、公表されていた裁判例や情報公開・個人情報保護審査会の答申は、いずれも被収容者診療情報が旧行政機関個人情報保護法45条

1項所定の保有個人情報に当たるとの見解を採っていたことがうかがわれる上、第1次上告審が判示した理由と同旨の解釈を示す文献等があったこともうかがわれない。そして、被収容者診療情報について、刑事事件に係る裁判の内容の実現等に付随する作用に関するものとみる余地があることは否定し難く、上記見解が同項の文理に反するものであるとまではいえないし、第三者による前科等の審査に用いられるなどの弊害の発生を防止するという同項の趣旨に照らしても、被収容者診療情報が開示されることになれば収容中に診療を受けた事実、ひいては前科等の存在が明らかになることからすると、上記見解が不合理であるとまではいえない。

 そうすると、本件決定当時、東京矯正管区長が立脚した上記見解に相当の根拠がなかったとはいえず、東京矯正管区長が本件決定をする上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情があるとはいえない。なお、本件決定当時、法務省の担当者等が、東京矯正管区長に対し、通達等をもって上記見解を採用すべきことを命じていたなどの事情はうかがわれない以上、本件決定の国家賠償法上の違法性に係る判断は、東京矯正管区長とは別の公務員である法務省の担当者等が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かによって左右されるものではない。

 以上によれば、本件決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。


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