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不貞相手に慰謝料請求できる?-最高裁令和8年6月5日判決から見る判断ポイント-


ウサラ

不倫相手に慰謝料を請求する事件で、最高裁の判決が出たって聞いたよ。

にゃソラ

うん。配偶者と不貞関係にあったとされる第三者に対して、慰謝料を請求できるか?が問題になった事案だね。

ウサラ

不倫相手が「相手はもう離婚したと思っていました」と言ったら、慰謝料は請求できなくなるの?

にゃソラ

そんなに単純ではないんだ。まず、本当に既婚者だと知っていたのか、知らなかったとして知らなかったことに過失があるのかが問題になる。

ウサラ

「離婚したって聞いていたけど、ちゃんと確認しなかったでしょ」ってこと?

にゃソラ

今回の最高裁は、そこだけで判断してはいけないと言ったんだ。

ウサラ

そこだけじゃダメなの?

にゃソラ

うん。離婚が成立していたと信じたことに相当な理由がなかったとしても、別の問題として、「夫婦関係はすでに破綻していた」と信じる相当な理由があったかもしれない。

ウサラ

なるほど。離婚していたかどうかと、夫婦としての生活がもう壊れていたかどうかは、別の話なんだね。

にゃソラ

不貞慰謝料で守られるのは、夫婦の婚姻共同生活の平和だからね。もし、その平和がすでに失われていた、あるいは失われていると信じる相当な理由があったなら、第三者の責任をどう考えるかは慎重に判断する必要がある。

ウサラ

うーん……不貞慰謝料って、思っていたより判断が細かいんだね。

にゃソラ

最高裁令和8年6月5日判決をもとに、不貞相手に慰謝料請求できる場合・できない場合の考え方を整理してみよう。

 Xが、元妻のAと不貞行為に及んだとして、Yに対し、不法行為に基づき、慰謝料等の支払いを求めた事案です。

 本判決は、事例判決で最高裁が新しい判断をしたわけではありません。

 夫婦の一方が、配偶者と不貞行為に及んだ不貞相手に慰謝料を請求する場合、以下の2つの法的構成が考えられます。

不貞相手に対する慰謝料請求の法的構成

 ①不貞行為自体を理由とする慰謝料→不貞慰謝料

②夫婦を離婚するに至らせたことを理由とする慰謝料→離婚慰謝料

離婚慰謝料の請求は認められない

 ②不貞相手に対する離婚慰謝料は、単に不貞行為に及ぶにとどまらず、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして夫婦を離婚に至らせたという特段の事情がなければ、認められません。

 したがって、通常、不貞相手に対して、離婚慰謝料の請求は認められないと考えられます。本件でも問題になっているのは、①不貞慰謝料です。

 不貞慰謝料の場合、不貞相手に対する慰謝料請求が認められるかどうか?は、以下のように整理できます。

不貞行為があったか?

 配偶者と不貞相手との間に、不貞行為、つまり、肉体関係があったか?が大前提です。肉体関係がなければ、基本的に慰謝料請求は認められません。

STEP
1

離婚したと信じたことに相当な理由があるか?

 不貞行為があった場合、不貞相手が、配偶者がすでに離婚したと信じたことに相当な理由があれば、慰謝料請求は認められません。

STEP
2

夫婦の婚姻関係が破綻していたか?

 離婚したと信じたことに相当な理由がない場合、直ちに、不貞相手に慰謝料が認められるわけではありません。不貞行為が婚姻関係の破綻後であれば、慰謝料請求は認められません。

STEP
3

婚姻関係が破綻していたと信じたことに相当な理由があるか?

 不貞行為が婚姻関係の破綻前の場合、不貞相手が、夫婦の婚姻関係が破綻していたと信じたことに相当な理由があるか?を検討する必要があります。

 相当な理由があると認められる場合は、慰謝料請求は認められません。

STEP
4

  XとAは、平成19年7月に婚姻の届出をし、平成20年に長男を、平成23年に二男を、平成26年に長女をもうけた。

 Aは、令和4年秋頃から、Yが代表者を務める会社の営む飲食店に勤務していた。Yは、令和5年3月に妻と離婚し、同飲食店の店舗に隣接した建物を事務所兼住居(Y宅)として使用していた。

 XとAの夫婦関係は、Xが自己破産したことやXが子らの面倒を余りみなかったことなどが原因でうまくいっておらず、令和5年6月頃には、同居はしていたものの、会話をすることがほとんどなく、電子メールにより互いに用件を伝え合うにとどまる関係となっていた。

 Xは、令和5年6月頃、Aに対し、離婚することを考えていると伝え、Aも、これに異論がなかったことから、その申出を了承した。Aは、同年7月頃、Xから、子らの養育費などについて弁護士に相談に行く旨を伝えられ、Xが着々と離婚に向けた準備を進めていると考えた。これらのやり取りも全て電子メールによって行われた。

 Yは、令和5年6月頃、Aから、Xとの離婚を考えている旨を伝えられ、それ以降、離婚に関する相談を受けるようになった。

 Aは、令和5年8月頃、Xから、電子メールで、以後家計を別々に管理すること及び互いのプライバシーに干渉しないことを提案され、これに同意した。Aは、これによって、Xとは離婚をしたのも同然の状況にあると考え、Xとすぐにでも離婚することができるように、離婚届の用紙を入手し、Aに関する部分に記入して、本件離婚届を保管した。

 Aは、上記の相談を重ねるうちにYに好意を抱くようになり、令和5年8月頃、Yとの仲を深める意図の下、Yに対し、本件離婚届を見せ、Xとは離婚するつもりであることや、Xから家計を別々に管理することを提案されたことを伝え、互いのプライバシーに干渉しないことを提案するXとの間の電子メールのやり取りを見せるなどした。Aに好意を持たれていることを意識していたYは、その好意に応える気持ちになり、Y宅で一緒に食事をしたり、プライベートな会話をしたりして過ごすようになった。

 Aは、令和5年10月9日午後10時8分頃、Yと共にY宅に入り、翌10日午前1時38分頃まで滞在し、また、同月15日午後9時前頃から翌16日午前1時48分頃までY宅に滞在した。

 Aは、令和5年10月、Xに対し、決断を促すため、本件離婚届を渡した。XとAは、同年11月14日、協議離婚をし、別居した。

 原審は、XのYに対する慰謝料請求を一部認めました。

 YとAは、令和5年8月頃には肉体関係を持っていたと推認されるが、YがAから離婚をしたとの報告を受けていた可能性は相当程度あり、Yが、Aが既婚者であると知りながら肉体関係を持ったと認めるには足りない。

 しかしながら、離婚したとか婚姻関係が破綻しているなどと虚言を弄して不貞行為に及ぶ者が多いことは世上よく知られているところであって、これを鵜呑みにするのは注意が足りないものといわざるを得ず、Yにおいて、AがXと離婚したと信ずるにつき相当の理由があったということはできないから、不貞行為に及んだことについて過失がある。

 最高裁は、原審が、Yが婚姻関係が破綻していたと信じ、かつ、そう信じるについて相当の理由があったか否かを検討していないとして、本件の審理を原審に差戻しました。

 Yは、もともとAがXと婚姻関係にあることを認識していたが、Aと肉体関係を持つまでに、Aから、Xと離婚するつもりであることを伝えられ、本件離婚届を見せられてもいたのであるから、AにおいてXと離婚する強固な意思があったことを認識していたというべきである。その上、Yは、Aから、Xから家計を別々に管理することを提案されたと伝えられたり、互いのプライバシーに干渉しないことを提案する旨のXとAとの間の電子メールのやり取りを見せられたりもしていたのであるから、Aと肉体関係を持った当時、AのみならずXも夫婦としての婚姻共同生活を解消する意向を示していることを知り、婚姻共同生活の実体が既に失われていると認識したこともうかがわれる。

 以上の事実関係等を前提にすれば、Yは、AとXが離婚したと信じたことについては相当の理由があったとはいえないとしても、その婚姻関係が既に破綻していると信じ、かつ、そう信ずるについて相当の理由があったとみる余地がある。そうすると、Yにおいて、AがXと離婚したと信ずるについて相当の理由があったとはいえないからといって、それだけで直ちにいわゆる不貞慰謝料の請求を認めるために必要な要素であるXの婚姻共同生活の平和の維持に係る権利利益を侵害したことについての過失があるということはできない。

 以上によれば、YにおいてAが離婚したと信じたことについて相当の理由があったか否かを検討するにとどまり、Yにおいて婚姻関係が破綻していたと信じ、かつ、そう信ずるについて相当の理由があったか否かを検討することなく直ちにYに過失があるとした原審の判断には、過失に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。


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