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取消訴訟の原告適格について判断した最高裁判決


行政訴訟の取消訴訟における原告適格に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁令和5年5月9日判決

 墓地、埋葬等に関する法律10条に基づく納骨堂の経営・施設の変更の決定について、近隣住民に当該決定の取消訴訟の原告適格が認められるか?が問題になりました。

取消訴訟の原告適格

 取消訴訟は、行政訴訟法の抗告訴訟の一つです(行政事件訴訟法3条2項)。

 取消訴訟の原告適格の問題は、誰が原告となって取消訴訟を提起することができるのか?という訴訟の入口の問題です。

 行政事件訴訟法は、当該処分の取消しを求めることに法律上の利益のある者に原告適格があると規定しています(行政事件訴訟法9条1項)。

(原告適格)

第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

 行政処分の相手方については、原告適格が問題になることはないと考えられます。たとえば、営業停止処分を受けた者は、営業停止処分の取消しを求めることに、法律上の利益があるのは、明らかです。

 問題は、行政処分の相手方以外の人の原告適格です。たとえば、都市計画法に基づく開発許可について、近隣の住民が取消訴訟を提起できるのか?ということが問題になります。このような行政処分の相手方以外の者に、原告適格が認められるか?について、行政事件訴訟法9条2項に解釈規定が設けられています。

 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

事案の概要

 墓地、埋葬等に関する法律10条は、1項において、墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長。)の許可を受けなければならない旨を規定し、2項において、

 1項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更しようとする者も、同様とする旨を規定する。

 墓地、埋葬等に関する法律施行細則(昭和31年大阪市規則第79号)8条は、本文において、市長は、法10条の規定による許可の申請があった場合において、当該申請に係る墓地等の所在地が、学校、病院及び人家の敷地からおおむね300m以内の場所にあるときは、当該許可を行わないものとすると規定し、ただし書において、市長が当該墓地等の付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるときは、この限りでないと規定する。

 本件法人は、平成28年4月、大阪市内の土地を購入した。大阪市長は、本件法人の申請を受けて、平成29年2月27日付けで、本件法人に対し、法10条1項の規定により、本件土地において鉄筋コンクリート造地上6階建て(高さ24.5m、建築面積281.32㎡)の納骨堂を経営することを許可した。

 そして、大阪市長は、本件法人の申請を受けて、令和元年11月26日付けで、本件法人に対し、法10条2項の規定により、本件納骨堂の施設を変更すること(納骨堂の面積の拡張等)を許可した。

 Xらは、いずれも、本件土地から直線距離で100m以内に所在する建物に居住している者である。

最高裁の判断

 最高裁は、本件納骨堂からおおむね300m以内の人家に居住する者には、本件各許可の取消しを求める原告適格があると判断しました。

 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

 そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである。

 法は、墓地等の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とし(1条)、10条において、墓地等を経営し又は墓地の区域等を変更しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を規定する。同条は、その許可の要件を特に規定しておらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い。

 もっとも、法10条が上記許可の要件を特に規定していないのは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営又は墓地の区域等の変更に係る許否の判断については、上記のような法の目的に従った都道府県知事の広範な裁量に委ね、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たものと解される。そうすると、同条は、法の目的に適合する限り、墓地経営等の許可の具体的な要件が、都道府県(市又は特別区にあっては、市又は特別区)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としているものと解される。

 そして、本件細則8条は、法の目的に沿って、大阪市長が行う法10条の規定による墓地経営等の許可の要件を具体的に規定するものであるから、Xらが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するか否かの判断に当たっては、その根拠となる法令として本件細則8条の趣旨及び目的を考慮すべきである。

 本件細則8条本文は、墓地等の設置場所に関し、墓地等が死体を葬るための施設であり(法2条)、その存在が人の死を想起させるものであることに鑑み、良好な生活環境を保全する必要がある施設として、学校、病院及び人家という特定の類型の施設に特に着目し、その周囲おおむね300m以内の場所における墓地経営等については、これらの施設に係る生活環境を損なうおそれがあるものとみて、これを原則として禁止する規定であると解される。そして、本件細則8条ただし書は、墓地等が国民の生活にとって必要なものであることにも配慮し、上記場所における墓地経営等であっても、個別具体的な事情の下で、上記生活環境に係る利益を著しく損なうおそれがないと判断される場合には、例外的に許可し得ることとした規定であると解される。

 そうすると、本件細則8条は、墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であると解するのが相当である。

 したがって、法10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有するものと解すべきである。


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