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信託法164条1項の適用排除条項について判断した最高裁決定


信託契約の終了について規定する164条1項の適用排除条項が問題になった最高裁決定を紹介します。

 信託契約は、委託者及び受託者の合意により、信託を終了させることができます(信託法164条1項)。ただし、信託行為に別段の定めがある場合は、その定めによります(信託法164条3項)。

 本件は、委託者が受託者に対して、信託法164条1項に基づき信託の終了を申入れた場合に、信託法164条3項の別段の定めがあるか?が問題になりました。

事案の概要

 Xは、平成29年5月23日当時、香港の本件会社の発行済株式総数93億6296万8249株のうち、9億1612万7910株の本件株式を保有していた。

 Xは、平成29年5月23日、兄であるYとの間で、Xを委託者兼受益者、Yを受託者とし、Xが本件株式を信託財産としてYに信託譲渡する旨の本件信託契約を締結した。

 本件信託契約には、委託者兼受益者及び受託者が、本件会社の価値の毀損を防止し、本件会社の利益の最大化を図ることを目的として、本件信託契約を締結する旨の定め(1条)、本件信託契約に係る信託の期間は本件信託契約の締結日から30年とする旨の定め(2条3項)があるほか、委託者兼受益者は、本件信託の期間中、本件信託契約を解除することはできないものとする本件条項(15条2項)がある。

 Xは、令和2年8月26日及び同年9月15日、Yに対し、本件信託契約の委託者兼受益者として、信託法164条1項により本件信託を終了させる旨の本件通知をした。これに対し、Yは、同月25日、本件条項が同条3項所定の別段の定めに当たるから、本件信託に同条1項の適用はなく、本件信託が終了したとは認められない旨を通知し、その後も、受託者の任務を遂行している。

 Xは、Yに対し、法58条4項に基づき、受託者の解任を申し立てた。

原審の判断

 原審は、本件条項が信託法164条3項の別段の定めに当たるとして、Xの受託者の解任申立てを認めませんでした。

 本件条項は別段の定めに当たると解されるから、本件信託には法164条1項の規定が適用されず、本件通知により本件信託は終了しない。したがって、Yが、本件通知による本件信託の終了を認めず、Xの意に反して受託者の任務を遂行したとしても、Yに法58条4項所定の重要な事由があるとはいえない。

最高裁の判断

 最高裁は、信託法164条3項の別段の定めとして効力を有するには、適用排除条項が信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合だと判断しました。

 また、仮に信託法164条3項の別段の定めとして効力を有するとしても、受託者が信託の終了を拒絶できるのは、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合だと判断しました。

 法164条は、1項において、委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができるとする一方で、3項では、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによるものとしている。同項は、社会、経済情勢の変化に的確に対応するため、信託の本質に反しない限り、信託の種類や目的に応じて柔軟に信託を設定することを可能にするという趣旨に出たものである。

 そして、信託は、信託財産の所有と利益享受の分離を図り、受託者が名義主体でありながら利益を享受しないことを特色とする法制度であって、これは信託の本質を成すものである。専ら受託者の利益を図ることを目的とする信託は許されず(法2条1項)、受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、信託の利益を享受することができない(法8条)とされていることは、このような信託の本質に由来し、この受託者の利益享受の禁止は、当事者の意思によって自由にこれを排除することは許されないというべきである。そうすると、委託者兼受益者と受託者との間で締結された信託契約に法164条1項の適用排除条項が設けられた場合にこれが別段の定めとして効力を有するか否かは、このような信託の本質に照らして検討されるべきものである。

 適用排除条項を設けることは、法164条3項により、委託者兼受益者にとって本来自由に行使し得るはずの信託の終了権限を制限し、その意思に反してでも受託者による任務遂行を認める結果となり得るから、信託契約に適用排除条項を設けること自体、抽象的、類型的には、委託者兼受益者と受託者の利益相反を招来する危険のある行為であるということができる。

 このような利益相反に関し、法は、31条1項において、受益者と受託者の利益が相反する行為を列挙してこれを禁止した上で、同条2項において、1項所定の利益相反行為であっても例外的に禁止が解除される事由を定めており、その1号では、「信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき」を、4号では、「受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき」を挙げている。同条1項が受益者と受託者の利益が相反する行為を列挙してこれを禁止しているのは、受託者の利益享受の禁止を受けて、その危険が現実化することを予防するとともに受託者の行為の透明性を確保することをその趣旨とするものであるから、当事者の意思によっても自由に排除することができない信託の本質に根ざしたものである。そうすると、同条2項により受託者の利益相反行為の禁止が解除されるためには、上記のような信託の本質に抵触しないことが前提となるというべきである。そして、同項4号の規定はその信託の本質に抵触しないための事由を実質的に定めたものということができるから、受託者が利益相反行為をすることが許容されるためには、その趣旨に照らし、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要すると解するのが相当である。このことからすると、当事者間の合意によって、受託者が同条1項所定の行為をすることを許容する旨の信託行為の定めが設けられた場合であっても、信託の本質を脅かすときには同条2項1号によって当該行為が許容されることはなく、これが許容されるためには信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要すると解すべきである。

 適用排除条項は信託契約の当事者間の合意により設けられるものであるが、その設定が委託者兼受益者と受託者の利益相反を招来する危険のある行為であることは前述のとおりであり、これによって、専ら受託者が利益を享受する事態を招き、信託の本質に抵触することがあり得るのであるから、適用排除条項が別段の定めとして効力を有するというためにも同様の要件が必要となると解される。

 したがって、適用排除条項が別段の定めとして効力を有するというためには、適用排除条項が信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するというべきである。

 仮に適用排除条項が別段の定めとして効力を有する場合であっても、受託者は適用排除条項を理由として委託者兼受益者の信託の終了の申入れを拒絶し任務を遂行することが直ちに許容されるわけではない。上記申入れの時点において、受託者がこれを拒絶して任務を遂行することについて、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められるのでなければ、専ら受託者が利益を享受して信託の本質を没却することになりかねないからである。

 したがって、委託者兼受益者が信託の終了を申し入れた場合に、受託者が適用排除条項を理由として上記の申入れを拒絶し任務を遂行することが許されるためには、受託者の当該行為が信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するというべきである。


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