株式交換にする株主の株式買取請求権の公正な価格について判断した最高裁決定を紹介します。
最高裁令和8年9月30日決定
株式交換に際して、株主総会で株式交換に反対した株主は、会社に対して株式を買取るよう請求できます。
反対株主が株式買取請求権を行使した場合、株式の買取価格は当事者間の協議で決めます。協議が整わない場合は、当事者の申立てにより裁判所が「公正な価格」を決定します。
本件は、「公正な価格」についての判断した最高裁決定です。
株式買取請求権の「公正な価格」
株式交換等の組織再編によるシナジー効果等によって企業価値が増加する場合と増加しない場合があります。
「公正な価格」とは、以下の2つのパターンがあります。
事案の概要
X社は、平成28年10月、A社との間で、資本業務提携契約を締結した。その後も両者の間で資本業務提携の在り方が検討される中、A社は、令和3年8月には、X社の株式の10.66%を保有するに至っていた。
他方で、Y社は、X社の株式の7.69%を保有していたところ、X社の子会社化を計画し、X社に対し、令和3年6月、その株式の公開買付けの実施を提案し、同年7月には、買付価格を1株につき2,250円とすることを明らかにした(本件競合提案)。
本件競合提案を受けて、X社は、令和3年7月、X社の株式をA社に追加取得させて同社の子会社となり、その対価として、A社から同社の完全子会社であるB社及びC社の全株式を取得することで、X社を株式交換完全親会社、B社及びC社をそれぞれ株式交換完全子会社とする株式交換を行うかどうか検討を開始した。
X社は、令和3年7月、本件株式交換と本件競合提案を比較検討して関係者と交渉させるため、X社、A社及びY社との間でいずれも利害関係のない弁護士並びに社外取締役から構成される本件特別委員会を設置した。
本件特別委員会は、A社やY社等の関係者に対するヒアリング等を実施するとともに、法務及び財務のアドバイザーとなった複数の専門家の意見聴取等を重ねながら、本件株式交換と本件競合提案の比較検討を行った。その際、財務関係の専門家が作成した株式価値算定書には、DCF法に基づき、本件株式交換実施後のX社の1株当たりの理論株価が、2,400円~3,018円になるとの試算をするものと、1,787円~3,128円になるとの試算をするものがあった。
A社は、本件株式交換について、当初、X社がB社及びC社の全株式を取得する対価として、X社の株式の議決権割合の60%を保有することとする旨の提案をした。これに対し、本件特別委員会の関与の下で、A社の議決権割合の引き下げの交渉がされた結果、A社は、令和3年8月、議決権割合を58%にとどめることとし、これに基づき、B社及びC社の1株に対するX社の株式の割当て比を提案した。他方で、本件特別委員会は、この頃、Y社に対しても、買付価格について交渉の余地はないか確認したが、現時点で買付価格を変更する考えはないとの回答を受けた。
本件特別委員会は、令和3年8月31日、X社の取締役会に対し、本件株式交換によって株主が享受できる利益は本件競合提案によるものを上回るか、少なくともこれと遜色なく、従来より資本業務提携をし、業態等が共通するB社及びC社との間の本件株式交換の方が、業態等に相違のあるY社との本件競合提案よりもX社の企業価値の向上に資するとして、本件株式交換を選択すべきである旨の本件答申をした。
X社は、令和3年8月31日、B社及びC社との間で、本件株式交換をする旨の本件株式交換契約を締結した上で、これを公表した。
X社の市場株価(終値)は、令和3年2月以降、900円台後半~1,100円台で推移し、同年7月末頃から徐々に値を上げ、上記の公表の前日に1,320円となっていたところ、上記公表がされた日に1,538円となり、上記公表後、上記公表前の株価の平均的な水準を上回る状態で推移した。
上記の公表を受け、Y社は、令和3年9月3日、本件競合提案を公表した。
本件取締役会は、Y社等の関係者からの求めや指摘を受けて、令和3年9月以降、株主に対し、本件特別委員会において検討された株式価値算定書等に係る情報及びその検討過程を公表するとともに、反対株主が株式買取請求権を行使した場合の買取価格は、会社法797条1項に規定する「公正な価格」となり、本件競合提案の買付価格に拘束されるものではないことや、本件試算は理論株価であって直ちに市場株価として実現する保証はないことなどを説明した。
X社は、令和3年10月29日、本件株式交換契約の承認を議案とする本件株主総会を開催した。本件株式交換契約については、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって承認する旨の本件決議がされ、同年12月15日、本件株式交換の効力が生じた。
X社の市場株価(終値)は、本件決議がされた日の翌取引日である令和3年11月1日に1,448円となり、Y社が同月8日に本件決議に瑕疵があるとの疑問を公表するまで1,200円台で推移していたものの、なお本件株式交換の公表前のおおむね半年間の平均的な水準を上回っていた。その後、X社の市場株価(終値)は、Y社が本件株式交換の差止めを求める仮処分の申立てをし、同年12月14日に最高裁判所において上記申立てが却下すべきものとされるまでの間、総じて値を上げ、同月15日に本件株式交換の効力が生じた後は、一時値を下げて1,000円~1,100円台で推移する時期もあったが、令和4年4月には1,400円となった。
本件株式交換について、反対株主に当たる複数の株主から、会社法797条1項に基づき、その保有するX社の株式の各買取請求がされた。これに対し、X社は、本件決議がされた日の翌取引日である令和3年11月1日から上記各請求がされた日(最も早い請求日は同月13日、最も遅い請求日は同年12月12日)までの期間につき、本件反対株主らごとに上記株式の終値出来高加重平均値を算出し、そのうち最高額である1株につき1,518円の本件提示額を買取価格として提示した。
本件反対株主らのうち、一部の者は上記の提示に応じたが、一部の者は上記提示に応じず、X社との間で買取価格について協議が調わなかった。
原審の判断
原審は、買取価格を1株につき1,670円と決めました。
本件株式交換により企業価値の増加が生じていないとはいえず、また、本件株式交換比率は公正なものとみるのが相当である。そして、本件提示額の基礎とされた市場株価につき本件株式交換が行われることを織り込んだ上で形成されているとみられない特段の事情はうかがわれない。
もっとも、本件では、本件競合提案や本件試算が公表されており、本件株式交換比率を決定するに当たっては、X社の株式が本件株式交換後に本件競合提案や本件試算で示された価値を有することが前提とされてきたものであり、本件決議に賛成した株主も同様の認識であったと解されるから、上記の公表がされていたことを本件各株式の買取価格の算定に当たり考慮しないのは公正さを欠くと考えられる。したがって、本件提示額から10%の増額をした金額である1株につき1,670円をもって公正な価格とするのが相当である。
最高裁の判断
最高裁は原審の買取価格についての判断を覆しました。そして、本件提示額を本件各株式の買取価格とした原々決定の判断を肯定しました。
株式交換について、反対株主に公正な価格での株式の買取りを請求する権利が付与された趣旨は、株式交換という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、反対株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には、株式交換がされなかったとした場合と経済的に同等の状態を確保し、さらに、株式交換により、組織再編によるシナジー効果その他の企業価値の増加が生ずる場合には、これを適切に分配し得るものとすることにより、反対株主の利益を一定の範囲で保障することにある。そして、株式交換によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合には、反対株主がした株式買取請求に係る公正な価格は、原則として、当該株式買取請求がされた日にY社る、株式交換を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうと解するのが相当であるが、それ以外の場合には、上記の公正な価格は、原則として、株式交換契約において定められていた株式交換比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうものと解するのが相当である。
一般に、相互に特別の資本関係がない会社間において株式交換契約が締結された場合には、それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約を締結することが期待できるだけでなく、株主は、株主としての自らの利益が株式交換によりどのように変化するかなどを考慮した上で、株式交換比率が公正であると判断した場合に株主総会において当該株式交換に賛成するといえるから、株式交換比率が公正なものであるか否かについては、原則として、上記の株主及び取締役の判断を尊重すべきである。そうすると、相互に特別の資本関係がない会社間において、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式交換の効力が発生した場合には、当該株主総会にY社る株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り、当該株式交換にY社る株式交換比率は公正なものとみるのが相当である。
また、相互に特別の資本関係がない会社間とはいえないなど、それぞれの会社の取締役による忠実義務の適切な履行等が期待できない場合であっても、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられた上で株式交換比率が定められ、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式交換の効力が発生したときには、上記と同様に解するのが相当である。
株式が上場されている場合、市場価格が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がない限り、公正な価格を算定するに当たって、その基礎資料として市場株価を用いることには合理性があるといえる。そして、株式交換契約で定められた株式交換比率が公正なものと認められる場合には、株式交換比率が公表された後にY社る市場株価は、特段の事情がない限り、公正な株式交換比率により株式交換がされることを織り込んだ上で形成されているとみられるものである。そうすると、上記の場合は、株式交換により企業価値の増加が生じないときを除き、反対株主の株式買取請求に係る公正な価格を算定するに当たって参照すべき市場株価として、基準日である株式買取請求がされた日にY社る市場株価や、偶発的要素による株価の変動の影響を排除するためこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることは、当該事案に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量の範囲内にあるといえる。
これを本件についてみると、本件特別委員会は、X社、A社及びY社との間でいずれも利害関係のない弁護士並びに社外取締役から構成され、独立した第三者委員会と評価できるものである上、複数の専門家の意見聴取等を重ねながら本件株式交換と本件競合提案を比較検討し、本件株式交換比率についてX社にとって有利な条件を引き出すなど、関係者と実質的な交渉をした上で、業態等の共通性も考慮して本件株式交換を選択すべきである旨の本件答申をしており、これを受けて、本件株主総会が開催されることになったものである。その際、本件取締役会は、株主に対し、本件特別委員会において検討された株式価値算定書等に係る情報及びその検討過程を公表するとともに、反対株主が株式買取請求権を行使した場合の買取価格は本件競合提案の買付価格に拘束されるものではないことや、本件試算は理論株価であって直ちに市場株価として実現する保証はないことを説明していた。本件決議はこのような説明等を受けてされたものである。そうすると、本件では、X社とA社が従前から資本業務提携をしていること等から、相互に特別の資本関係がない会社間の株式交換の場合と同列に扱うことはできないものの、意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に本件決議がされているなど一般に公正と認められる手続により本件株式交換の効力が発生したということができる。そして、本件株主総会に先立つ情報の開示状況等に照らし、本件株主総会にY社る株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情はうかがわれないから、本件株式交換比率は公正なものというべきところ、X社の株式の市場株価の推移等も併せ考慮すると、本件株式交換により企業価値の増加が生じないということはできず、本件株式交換が公表された後の市場株価は、特段の事情がない限り、公正な株式交換比率により株式交換がされることを織り込んだ上で形成されたものとみるのが相当である。
そして、本件提示額は、本件決議により本件株式交換の実施が決せられた後のX社の市場株価を基礎とし、本件決議がされた日の翌取引日から本件反対株主らの各株式買取請求がされた日までの期間につき、本件反対株主らごとに終値出来高加重平均値を算出し、そのうちの最高額を上記各請求がされた日においてX社の株式が有していると認められる価格として提示したものであるところ、上記期間にY社るX社の株式の市場株価の推移等に照らすと、その基礎とした市場株価につき本件株式交換が行われることを織り込んだ上で形成されているとみられない特段の事情はうかがわれない。このことは、原審もその判断の前提としているとおりである。
前示のとおり、反対株主の株式買取請求権は、株主総会において株式交換が承認されたことの効果として認められるものであり、反対株主に対し、株式交換がされなかったとした場合と経済的に同等の状態を確保し、さらに、株式交換により、シナジー効果その他の企業価値の増加が生ずる場合には、これを適切に分配し得るものとすることにより、その利益を一定の範囲で保障する趣旨に出たものであるところ、本件競合提案や本件試算が公表されていたことは、それ自体が上記趣旨にいう企業価値の増加をもたらすものではない。そして、本件決議に先立ち、本件試算は理論株価であって直ちに市場株価として実現する保証はないことなどが説明されており、上記の公表がされていたことにより本件株主総会に先立つ情報の開示等に問題があったということはできない。このような状況の下で、本件競合提案ではなく、本件株式交換契約を承認する本件決議がされたのであるから、反対株主において本件競合提案が実現していたとすれば得られたであろう利益を得るべき理由はなく、上記の説明がされていた本件試算をX社の株式の買取価格の算定において改めて考慮しなければならない理由もない。
そうすると、本件提示額の算定過程に不合理な点はないというべきであって、上記公表がされていたことを考慮して、本件反対株主らに対し、本件提示額から増額した額を買取価格として取得させなければ公正を欠くということはできない。
したがって、本件競合提案や本件試算が公表されていたことを考慮して本件提示額から増額した金額をもって公正な価格とした原審の判断には、会社法797条1項の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
