訴え提起手数料の還付請求権の差押えに関する最高裁決定を紹介します。
最高裁令和8年9月30日決定
民事訴訟を提起する場合、所定の手数料を支払う必要があります。
訴訟提起後に、訴訟外で和解が成立したなど、第1回口頭弁論期日前に訴えを取下げた場合、支払った手数料の半額を還付請求できます(民事訴訟費用等に関する法律9条2号1号)。
本件は、手数料還付請求権を差押えた事案です。手数料還付請求権を差押えた債権者が、手数料還付請求権を行使できるか?が問題になりました。
事案の概要
本件の本案訴訟の原告であるYは、訴え提起の手数として、民事訴訟費用等に関する法律(令和4年法律第48号による改正前のもの)3条1項所定の額に当たる3万6,000円を納めていたが、第1回口頭弁論期日の前である令和6年5月に訴えを取り下げた。
Xは、本案訴訟の原告を債務者、国を第三債務者として、Yの有する費用法9条3項に基づく本件手数料についての本件還付請求権を差押債権とする差押命令の申立てをした。この申立てに基づき、令和6年6月、差押命令が発せられ、同差押命令は、同月、第三債務者に送達され、同年8月、債務者に送達された。
Xは、本案訴訟について費用法9条3項1号に定める事由があると主張し、民事執行法155条1項に定める取立の行使として、費用法9条3項に基づき、本件手数料につき1万8,000円の還付の申立てをした。
原審の判断
原審は、Xによる取立権の行使を認めませんでした。
費用法9条3項に基づく還付請求権は行使上の一身専属性を有するものであって、手数料の納付者のみがこれを行使することができる。したがって、Xが、取立権の行使として、本件手数料について同項に基づく還付の申立てをすることはできないというべきである。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、Xによる取立権の行使を認めました。
費用法9条3項は、同項各号に掲げる申立てについてそれぞれ当該各号に定める事由が生じた場合においては、裁判所は、申立てにより、決定で、納められた手数料の額から納めるべき手数料の額の2分の1の額(その額が4,000円に満たないときは、4,000円)を控除した金額の金銭を還付しなければならない旨定めている。これは、同項各号に掲げる申立てにつき手続の初期の段階で却下の裁判が確定し又は取下げがされた場合には、当該手続を利用するために納められた手数料の一部の還付を受けることができるようにすることにより負担の公平を図る趣旨に出たものである。そうすると、同項に基づく還付の申立ては、納めた手数料の一部の還付を受けるという専ら経済的利益を得ることを目的とする行為というべきである。そして、還付を受けた場合にその反面として納付者に何らかの不利益が生ずるものではなく、費用法上、上記申立てさえされれば、同項各号に掲げる事由の有無及び還付の額は事件記録により認められる事実等から形式的に判断されることが予定されているものと解されることをも踏まえると、上記申立てをするか否かを納付者のみの意思に委ねるべき理由はないというべきである。また、これらの点からすれば、納付者の債権者において、同項に基づく還付の決定がされる前の還付請求権を納付者の責任財産として期待することが不合理であるということもできない。
以上によると、費用法9条3項に基づく還付請求権は行使上の一身専属性を有するものではないというべきである。そして、上述したところに照らせば、同項に基づく還付の申立てをすることは、差し押さえた上記還付請求権の取立てのために必要不可欠な行為であり、取立ての範囲を超えるものではない。したがって、費用法9条3項に基づく還付請求権を差し押さえた債権者は、取立権の行使として、同項に基づく還付の申立てをすることができると解するのが相当である。
本案訴訟につき費用法9条3項1号に定める事由があると認められるところ、Xは本件還付請求権を差し押さえ、これに基づく取立権が発生している。したがって、Xは、本件手数料について同項に基づく還付の申立てをすることができる。
